第4章 非可換微分作用素の指数法則


(13)(14)式の1次のSymplectic法がEuler法とあまり変わり無いように 見えるのは、実は仮定した指数法則が成り立っていないからなのです。
でも、なんらかの形で二つの作用素が積の形で分離できると、運動の厳密な 予測ができるのです。実はそれが無限積の形で実現されるのです。

A,Bを一般の非可換の作用素とし、tをスカラーとすると、

(15)

計算で無限積にするのは無理なので有限積となります。この係数 u_i,k_iを求めるには、上式をExpの定義にしたがって テイラー展開し、作用素の同じ項でまとめ、その係数を比較し、 u_i,k_iの連立方程式を作り、それを解くことによって得られます。

試しに一つ例として求めてみましょう。有限積で、さぼって r=2 とします。さらにt の3乗のオーダーを無視することにします。 (15)式

(16)

となります。この左辺は

(17)

と展開されます。右辺は少し込み入ってますが、t^3 を無視して 計算をすすめます。



(18)

これから係数を比較して、u_i,k_iの連立方程式を作ります。

(19)

独立でない方程式があるのでこれだけでは係数は一意には 定まりませんが、これは我々に係数を選ぶ権利があることになります。 なので展開が最も簡単になるように k_2=0 としましょう。 こうすると解は次のようになります。

(20)

が求まりました。

よって(15)式の2次近似式は

(21)

となります。指数の並び方が左右対称になっていますね。 実はこの対称性が後で重要になります。そのため先程、 k_2=0 を選んだのです。

この結果を(04)式に用いると、

(22)

作用素が分解されたので具体的な計算にはいれます。

まず最初の作用素による変換で (p(0),q(0))(p_1,q_1) に写ります。

(23)

次の作用素による変換で (p_1,q_1)(p_2,q_2) に写ります。

(24)

最後の作用素による変換で (p_2,q_2)(p(Δt),q(Δt)) に写ります。

(25)

こうして1つの時間ステップ \Delta t を進めることができました。 以上のプロセスで運動方程式を解いていく方法を 2次のSymplectic解法と呼びます。


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    Copyright(C) by Naoki Watanabe. Oct 21st, 1995.
    渡辺尚貴 naoki@cms.phys.s.u-tokyo.ac.jp